系統解析論文紹介（脱皮動物Ecdysozoa）

ホーム > 系統解析論文紹介（脱皮動物Ecdysozoa）
最終更新：2025年4月21日
最終確認：2025年4月19日


脱皮動物Ecdysozoaは定期的に「脱皮」によって交換されるクチクラを持つことで特徴付けられる、左右相称動物の大きなクレードの一つです。以下の8動物門で構成されています。

脱皮動物内部では、有棘動物Scalidophora（胴甲動物門＋動吻動物門＋鰓曳動物門）、糸形動物Nematoida（類線形動物門＋線形動物門）、汎節足動物Panarthropoda（緩歩動物門＋有爪動物門＋節足動物門）の3つのクレードが一般的には認められていますが（Giribet & Edgecombe, 2017）、近年の系統学的研究にはこれらの3つのクレードを支持するものとむしろ別の仮説を支持するものがあり、内部系統は十分に解決していません。ただし、汎節足動物の単系統性は形態データから強く支持されており、分子データもその支持に収束し始めているので（Laumer et al., 2019；Marlétaz et al., 2019；Howard et al., 2022；Giacomelli, 2023，Giacomelli et al., 2025；これらの引用文献）、現状では真である可能性がかなり高いことが言えるかと思います。

本ページでは、脱皮動物の門レベル以上の系統関係（古生物も含む）について、定量的な系統解析によりアプローチした2011年（特にこの年に意味はありません）以降の論文を、分子データ、形態データ、その他のデータ（indel patterns、genome gene contentなど）の3つに分けて可能な限り網羅的に紹介します。脱皮動物以外の分類群や脱皮動物内部の特定の分類群に焦点を当てていて、脱皮動物全体のタクソンサンプリングが少なくほとんど意味をなさないと考えられたものについては除外しました。

もし明らかな抜けがあれば、GitHub Issuesまたはメール（mz9862.github@gmail.com）にて報告していただけると幸いです。

今後余裕があれば、各研究が支持しているクレードについて明記したり、一言コメントを添えたりするかもしれません。

分子データ

2025

「CAT-posterior mean site frequenciesにより最尤法における系統的モデル化が改善され、緩歩動物が有爪動物＋節足動物の姉妹群として解き明かされる」（オープンアクセス）
CAT-Posterior Mean Site Frequencies Improves Phylogenetic Modeling Under Maximum Likelihood and Resolves Tardigrada as the Sister of Arthropoda Plus Onychophora (Giacomelli et al., 2025, Genome Biology and Evolution)
DOI

「大きいもの、小さいもの、奇妙なもの：現生鰓曳動物のゲノム系統解析」（オープンアクセス）
The big, the small and the weird: A phylogenomic analysis of extant Priapulida (Raeker et al., 2025, Molecular Phylogenetics and Evolution)
DOI

2024

「新たなゲノムアプローチにより、珍無腸動物が全ての左右相称動物の姉妹群として支持される」（プレプリント・閲覧可能）
Novel genomic approaches support Xenacoelomorpha as sister to all Bilateria (Álvarez-Presas et al., 2025, Research Square)
DOI
補足：プレプリントのコメントで指摘されていますが、タイトルが少し変です。珍無腸動物はれっきとした左右相称動物（Bilateria）であり、タイトルの「sister to all Bilateria」は「sister to all other Bilateria」、「sister to other Bilateria」、「sister to remaining Bilateria」などに修正されるべきです。

2023

「脱皮動物のゲノム系統解析により、緩歩動物が汎節足動物の構成員として確認され、類線形動物と線形動物が姉妹群ではないかもしれないことが示唆される」（博士論文チャプター・閲覧可能）
Phylogenomic analyses of Ecdysozoa identify Tardigrada as a member of Panarthropoda and suggest Nematomorpha and Nematoda might not be sister taxa (Giacomelli, 2023, University of Bristol)
博士論文URL
補足：上の Giacomelli et al. (2025) とほぼ同じですが、少し内容が違います。

2022

「脱皮動物のエディアカラン紀の起源：化石とゲノム系統学的データを統合する」（オープンアクセス）
The Ediacaran origin of Ecdysozoa: integrating fossil and phylogenomic data (Howard et al., 2022, Journal of the Geological Society)
DOI

「マッドドラゴン（動吻動物）のゲノム系統解析」（オープンアクセス）
Phylogenomic analyses of mud dragons (Kinorhyncha) (Herranz et al., 2022, Molecular Phylogenetics and Evolution)
DOI

2019

「自由生活性の線形動物のゲノム系統学的サンプリングの改善により、高次の線形動物の系統の解像度が向上する」（オープンアクセス）
Improved phylogenomic sampling of free-living nematodes enhances resolution of higher-level nematode phylogeny (Smythe et al., 2019, BMC Ecology and Evolution)
DOI

「螺旋動物の新しい系統により、謎めいたヤムシ類が担顎動物の中に位置付けられる」（オープンアクセス）
A New Spiralian Phylogeny Places the Enigmatic Arrow Worms among Gnathiferans (Marlétaz et al., 2019, Current Biology)
DOI
補足：この論文（Marlétaz et al., 2019）は毛顎動物門Chaetognathaを担顎動物Gnathifera（元々、顎口動物門、微顎動物門、輪形動物門を含んでいた）に含めることを提唱しましたが、現在は古生物学的・形態的データにより、毛顎動物門が（顎口動物門＋（微顎動物門＋輪形動物門））の姉妹群であることが広く認められており（Bekkouche & Gąsiorowski, 2022（PDF）；Park et al., 2024；Luo et al., 2025）、Bekkouche & Gąsiorowski (2022) が提唱した、（毛顎動物門＋（顎口動物門＋（微顎動物門＋輪形動物門）））をChaetognathiferaと呼び、（顎口動物門＋（微顎動物門＋輪形動物門））を担顎動物Gnathiferaと呼ぶ命名法が通常使われています（Conway Morris et al., 2020（PDF）；Park et al., 2024；Luo et al., 2025；Peel, 2025；Slater, 2025）。

「全ての門のゲノムサンプリングによる後生動物の系統の再検討」（オープンアクセス）
Revisiting metazoan phylogeny with genomic sampling of all phyla (Laumer et al., 2019a, Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences)
DOI
補足：訂正（Laumer et al., 2019b）が出版されています。

2017

「緩歩動物ドゥジャルダンヤマクマムシとヨコヅナクマムシの比較ゲノム学」（オープンアクセス）
Comparative genomics of the tardigrades Hypsibius dujardini and Ramazzottius varieornatus (Yoshida et al., 2017, PLOS Biology)
DOI

2015

「ほぼ全長の18Sおよび28S rRNA遺伝子配列から推定される胴甲動物の系統学的位置」（オープンアクセス）
Phylogenetic position of Loricifera inferred from nearly complete 18S and 28S rRNA gene sequences (Yamasaki et al., 2015, Zoological Letters)
DOI

「螺旋動物の系統により微視的な系統の進化が解明される」（オープンアクセス）
Spiralian Phylogeny Informs the Evolution of Microscopic Lineages (Laumer et al., 2015, Current Biology)
DOI

2014

「脱皮動物の系統へのトランスクリプトームによるアプローチ」
A transcriptome approach to ecdysozoan phylogeny (Borner et al., 2014, Molecular Phylogenetics and Evolution)
DOI

2013

「分子的な年代付けされた系統樹により、カンブリア紀の陸上への定着と脱皮動物の進化の新たなシナリオが明らかになる」（オープンアクセス）
Molecular Timetrees Reveal a Cambrian Colonization of Land and a New Scenario for Ecdysozoan Evolution (Rota-Stabelli et al., 2013, Current Biology)
DOI

2011

「microRNAとゲノム系統学により、緩歩動物の系統関係が解明され、カギムシ類が節足動物の姉妹群であることが示唆される」（オープンアクセス）
MicroRNAs and phylogenomics resolve the relationships of Tardigrada and suggest that velvet worms are the sister group of Arthropoda (Campbell et al., 2011, Proceedings of the National Academy of Sciences)
DOI

形態データ

準備中

その他のデータ

準備中